X'mas Memories
消夢さん作


窓辺の下、日が優しく照らしているその場所に
藍色の髪の少女が一人、静かに綺麗な青に染まった天を見ていた。

少女は暑い、と感じた。
恐らくは、外と内との気温の差が原因だろう。
ちらりと横目で火が激しく燃え盛っている暖炉を
再確認しながらそう考えた。

「・・・・・・・・・・・」

千年
少女にとっては長くもあり、短くもあった時の流れ。
その千年を、少女は深い闇の中で過ごしてきた。
―ほんの一時の、例外と呼べる時間を除いては。

「ママ・・・ミスティーナ・・・アクセル・・・・・」

まるで話しかけるように、少女は呟いた
闇にいなかった時間―光り輝く、とはまでは言えないが
少なくとも、時折ながら『楽しい』と感じることのできる
少女にとっては貴重な時間を共に過ごした家族の名を呟いた。
思い出してみれば、あの日もこんな風に
暖かい部屋の中、外の寒さを思いながら窓の外を見下ろしていた。


――そう、あの日も











X'mas Memories



















暖かい陽射しが差し込む窓辺で、シャルタは一人
美しい青に染まった空を見ていた。
何をするでもなく、人によっては無駄な時間と言うであろう時間。
しかし、彼女は何よりもその時間を好んでいた。
誰にも干渉を受けず、けれど誰にも干渉をしない。
ぼんやりと青き天を見るその目は、満足げにまどろんでいた。



「「せぇの・・・・・わっ!!」」

「きゃっ!?」

後ろから突然響いた大声に、シャルタは思わず飛び上がった。
ついでに、頭を窓枠にぶつける。

「あっはははははははははは!!」
「あははははははは!!『きゃっ』だって!おもしろ〜い!!」

「つつ・・・で?何か用?」

先程とはうってかわった鋭い目で
さもおかしそうに笑い合っている兄妹を睨みつける。

――人を食ったようにケタケタと笑っているのはアクセル。
片手で口を押さえて、逆の手でシャルタを指差しているのはミスティーナ。
ちなみに、この三人は三つ子なのだが
似通った点が一切ないとシャルタ自身は思っている。

「今日はクリスマスだぜ!?早く飾りつけ手伝えよ!」

「そうだよ〜!シャルタだけ手伝わないなんて、ずるいぞっ!!」

ミスティーナが頬を膨らませる。
――同じことをシャルタがやったら、引かれること請け合いであろう。

「・・・私はクリスマスパーティーなんて、できないわよ」

「え〜、どうして!?」

「・・・ミスティーナ、クリスマスがどんな日かは知ってるわよね?」

唐突に言われて一瞬躊躇をしたが、すぐに気を取り直して返した。

「うん、サンタさんが良い子たちに
 夜、プレゼントを持ってきてくれる日でしょ?」

どこまでもおめでたいやつである。

「・・・・・違うわよ、本来はどんな日なのかって事」

「え〜と・・・・・」

助けを求めようと、アクセルを見たが彼は元々そういう話に興味がないのか
先程シャルタがしていたのと同じように
窓の外にある空を、黙って見ていた。

「時間切れよ・・・
 クリスマスってのは、本来は聖者が生まれた記念日なのよ。
 つまり、クリスマスは光を称える日」

「それって、サランスレスにうってつけじゃん!」

突然、アクセルが会話に加わる。

「何てったって、サランスレスは光の国になるんだからな!」

「そうそう!」

「そう、光の国で迎える初めての光の日
 ・・・だから、私がここでクリスマスを祝えるわけがないのよ」

「あ・・・」と呟く声が聞こえた。

「私はこの光の国で唯一、闇の力を持っている
 ・・・みんな、私の事を恐れていて、早く消えて欲しいと願っている。
 どうして私が、そんな目にあいながらも
 光の日を祝わなければいけないの?」

静かに、けれど全てを拒絶するかのような冷たい声。

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

「わかったら、さっさと下へ行ってママの手伝いをしてきて。
 ・・・ただし、私は抜きで」

「シャルタ・・・・・」

アクセルがシャルタの後ろに移動し、頭の上にぽん、と手を置いた。
彼にしてみれば親しみを込めた慰めなのかもしれないが
今のシャルタには全てがうっとおしく感じた。

「お願いだから、放っておいて・・・・・」

「・・・・・・ほれっ!」

「わっ!?」

アクセルが、まるで赤子を抱き上げる父親のように
ひょいっ、とシャルタを後ろから持ち上げた。

「ア、アクセル!下ろしてよ!!」

慌てたのはシャルタ。
アクセルの奇行もそうだが、この体勢はかなり恥ずかしい。

「別にいいだろ?クリスマスがどんな日かなんて
 ・・・俺達は家族なんだからさ、お祝いをしないでどうするんだよ!」

「お、アクセル君いいこと言うね〜」

「だろ?今日くらいはいい日でもバチはあたらないよな!」

再び何か言おうとしたシャルタだったが
喉まででかかった言葉を、あえて飲み込んだ。
―今日くらいはいい日でも、か・・・

私に対する人々の反応があまり暖かいものではないのは
家族全員が知っていることだった。
それを話題に出される事を、私が嫌っているという事も。
だから、誰もそのことについては全く触れないが
アクセルの気質からして、放っておくことは出来ないのだろう。
何かと私の世話を焼こうとする。
もっとも、世話を焼く理由はそれだけでないような気もするのだが。

「・・・そうね、今日くらいはいいかもね」

「あ、やっとその気になってくれたんだ!
 それじゃあさ、早く下に行こうよ!」

「そうだな!それじゃ・・・よいしょ・・・っと!」

アクセルがそのままの状態で、歩き出す。

「って・・・・ちょっと、早く下ろしてよ!」

「いいじゃん、兄妹なんだしさ
 たまにはシャルタも俺に甘えろよな!」

「だ、誰が!」

「シャルタ、赤ちゃんみたいだね」

いつもクールで感情をあまり表に出すことのない
シャルタの様子を見て、笑いを堪えながらミスティーナが言った。

「アクセル、もういいから!早く下ろしてって!」

「う〜ん・・・どうする?ミスティーナ」

ニヤリと何かを企んでいる笑い顔を浮かべているアクセル。
そしてやはり妖しげな笑い――誰の影響なのかは知らない――を
浮かべるミスティーナ。

「手伝わなかった罰として
 このままお母さんの所まで行くってのはどう?」

「お、いいねぇ!」

アクセルもそれに同調する。

「うう・・・・・・・・・」

このまま下りたら、母親になんと言われるかを想像して
早く抜け出さなければと、じたばた暴れだす。
だが、相手は仮にもサランスレスの――自称ではあるが――騎士。
その上、父親譲りの腕力を持っている彼の腕から
シャルタが逃れられるわけもなかった。
――いや、正確には『魔法』と言う手があったにはあったのだが
単に焦って思いつかなかったのか、あるいは本人も楽しんでいるのか
それがアクセル相手に放たれる事はなかった。

結果、シャルタは
『アクセルにだっこしてもらってるんだ
 何だか、兄妹じゃなくって、親子みたいに見えるね』

と母親に言われ、赤面することになるのだが
それはそれで満足そうだった。
















「ね、シャルタ、アクセル・・・起きてる?」

小規模ながらも、いつにも増して騒がしい
――後半は戦闘になっていたような気もする――
クリスマスパーティーが終わり
3人は、いつも通り眠りの渦に巻き込まれるはずだった。
しかし、今夜に限ってはミスティーナが目を覚ましていた。

「ZZZ....」

時刻は真夜中と言ってもいい時間
当然というべきか、アクセルは深い深い眠りの中にいた。
しかし、シャルタはミスティーナとはまた別の理由で、目覚めていた。

「・・・まだ起きてたの?ミスティーナ」

「うん・・・サンタさんのこと考えると、眠れなくて
 今年こそ会えるかなぁ?」

実際には光の勇者――ゴートを通して
側近である、あの兵士が届けてくれるのだが。
とはいえ、『サンタ』なるものの存在を純粋に信じている
ミスティーナの夢を木っ端微塵に打ち砕くほど、シャルタは冷たくはない。

「ふ〜ん・・・ミスティーナは、何をお願いしたの?」

「お魚をい〜っぱい!・・・って」

「・・・・・・・・・・・・・・」

呆れ果てた顔のシャルタに、えへへと照れ笑いをしながら、聞いた。

「シャルタは、何をお願いしたの?」

「・・・別に、何も」

「ええ!?どーして?
 折角のクリスマスなのに、何にもいらないの?」

一瞬だけ、シャルタは困ったような表情を浮かべた。

「別に・・・第一、何にも思いつかないのに
 無理に何かを求める理由もないでしょ?」

「・・・ふ〜ん、私だったら無理にでも何かお願いしちゃうけどな」

「無理にでもって・・・ミスティーナが欲しい物は常に『お魚』でしょ?」

笑みを漏らしながら言う。
その発言が図星だったのか、一瞬うっと怯んだ。

「ち、ちがうよ!
 私だって、お魚よりもっと欲しい物があるもん!」

「何?」

シャルタにしてみれば、ただからかっているだけなのだが
当のミスティーナは、いつになく真剣で
それでいてどこか寂しそうな顔を浮かべながら、静かに言った。

「・・・・・絶対、誰にも言わないって約束してくれる?」

「・・・うん」

こくりと、小さいけれど確かに頷く。

「・・・あのね・・・・・お父さん・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「物じゃないけど・・・私、今年こそお父さんと一緒に
 クリスマス、過ごせたらいいな、って・・・。
 ううん、できればずっと一緒にいたいけど
 せめてクリスマスの日だけでもいいから、一緒にいてくれないかなって
 ・・・ずーっと、そう思ってたんだ・・・・・」

ずっと
一体、何歳の頃なのだろうか。
毎日のように、ミスティーナが『お父さんに会いたい』と言っていたのは。
昔からのことで誰もが知ってはいたから、この願いも意外性はない。
なのに、何故かシャルタは意外に感じていた。
年中元気で、御気楽なミスティーナの内で
こんなにも悲しくも強い想いが渦巻いていたことを
意外と思ったのかもしれない。

「・・・お父さん・・・・・」

呟き声の方向を見ると、そこには既に睡魔に誘われ
今年も『サンタ』に会えぬまま、眠ってしまったミスティーナ。
どうやら、シャルタが考え事をしている間に
襲い掛かる睡魔に耐え切れなくなったようだ。
―せめて、夢の中だけでも父親に会わせてほしい。
純粋なその寝顔を見ながら、シャルタは心の中でそう願った。
誰に願ったのかは、シャルタ自身も知らなかったのだが。

「・・・・・・・・・」

玄関の扉が、静かに開く音が聞こえ
遅れて『カティさん達、失礼しま〜す』と言う、聞きなれた声。
どうやら『サンタ』がやってきたようだった。

「危なかったわね、サンタさん・・・危うく正体がバレる所だったわよ」

呟きながら、自分もそろそろ寝る事にしようと、目を瞑った。
襲い掛かる眠りの波に飲み込まれながら、自分のプレゼントは
家族皆で過ごせる夢がいいなと、まどろみの中で思いながら
シャルタは、静かに夢の中へと落ちていった。



















「・・・・・・・・・・・・わっ!」

「きゃっ!?」

後ろから突然響いた大声に、シャルタは思わず飛び上がった。
ついでに、頭を窓枠にぶつける。

「あははははははははははは!!」

「・・・・・・・・・!?」

まさかと思いながらも
慌てて振り返るシャルタの目に飛び込んできたのは――。

「アクセ・・・・・」

「・・・ん?どうしたの、シャルタ」

一瞬、アクセルと姿が重なったが
それはアクセルではなく
ミスティーナの『願い』
そして、恐らくはミスティーナだけではなく
自分を含んだ家族全員が会いたがっていた人物。
――父親である、デューンだった。

「・・・ううん、別に」

「ふーん・・・あ、そうそう!
 シャルタ、もうそろそろパーティーが始まるから、早く行こうよ!」

ふと見ると、たしかにサランスレス城内は
いつの間に済んだのか、飾りつけも殆ど完了しており
会場に進む兵士の足取りも、心なしか軽やかになっているような気がする。

「うん・・・・・・」

「どうしたの、シャルタ・・・随分悲しそうだけど」

「なんでもない・・・行きましょ、パパ」

本当は話してもいいかもしれないが
今日くらい、父親にはそんな悲しいことを考えて欲しくない。
そう思い、シャルタは言葉を飲み込んだ。

『前は、ママにアクセル、ミスティーナがいたけれど、パパがいなかった。
 でもいまは、パパの代わりに皆いなくなった・・・
 どうして、私達だけ家族皆で過ごす事ができないのかな、と思って・・・』

――話したかった言葉を、音もなく飲み込んだ。


「うん、行こっか、姉さん達も待ってるし・・・って、シャルタ?」

驚くのも無理はない。
いつもは自分と比べても遥かに大人っぽいシャルタに
いきなり飛び掛られたのだから。
反射的に、デューンはシャルタが落ちないように、抱きかかえる。
端から見れば、それはいわゆる『だっこ』に他ならなかった。

「・・・・・・・・・・」

放すまいとするかのように、ぎゅっと腕に力を込めるシャルタ。
デューンは一瞬。シャルタも気付かなかったほんの一瞬だけ
何かに思い当たったかのように、寂しさと暖かさを感じる瞳を向けた。

「やっぱり変だよ・・・どうしたの、シャルタ」

「・・・お願い、今日だけでいいから・・・・・」

「う、うん・・・・・わかった」

そのまま普段とあまり変わらない歩調で歩き出す。
彼にしてみれば、成長していようがしていまいが
娘を抱えて歩くなど、朝飯前の事なのだろう。
そしてその途中、デューンは思い出したように愛娘の頭を優しく撫でた。
シャルタは、それが自分のクリスマスプレゼントだ、と感じた。

あの時も。そして今も。
この日を過ごす時間を『楽しい』と考えている自分がいる。
過ごす人は違っても。過ごす場所は違っても。
その思いだけは変わらない。

父親と共に過ごす、初めてのクリスマス
これからどれくらいの間、一緒にいられるかはわからない。
けれど、自分は出来る限り長い間
父親と共に、どんな事が待ち受けていても
楽しいと感じる事のできる時を過ごしたいと願っていた。







―ねぇ、パパ


―ん?


―今夜、一緒に寝てもいい?


―うん、いいよ。


―ありがと・・・それと・・・・・







―メリー・クリスマス・・・・・
















プレゼントが届くのが 1000年遅れた分の埋め合わせとしては

まあ、妥当なところかな?

そんなことを思いながら シャルタは父親の暖かさを感じた






――結局、パーティー会場まで抱っこで連れて行かれ(途中から強制)
  皆に散々からかわれて、赤面することになったのだが
  それは、また別のお話。













読んだよだけでも良いですので、お気軽に送ってください♪

お名前

メールアドレスなど

ご意見ご感想